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データベース研究

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データベース研究とは

データベースという言葉はおそらく誰でも耳にしたことがあるかと思いますが、データベースを構築した経験のある外科医は少ないのではないでしょうか。外科領域の臨床研究においてデータベースを構築すること、またはシステムの中身を理解することは今後必須になっていくと思います。

最近の臨床研究は、いわゆるビッグデータ解析というものが注目されておりますが、おそらく一般の臨床医のレベルにこの言葉が入ってくるようになったのは2010年以降ではないかと思います。私が京都大学のSchool of Public Healthのコースに在籍した2011年のころは、一部の講義で話が少し出たというくらいで、一般の外科医が行なう臨床研究のテーマとしてはあまり認識されていませんでした。

しかし実際には、このような構想は、何十年も前からあったわけで、例えばアメリカの悪性腫瘍の国規模のデータベースであるNational Cancer Databaseは1990年代から構築されていますし、 Surveillance, Epidemiology, and End Results (SEER) Programという地域登録システムの癌データベースは1973年から登録が開始されています。留意すべきはこのころから準備され、データ集積がされてきたという基盤があってこその現在のビッグデータの潮流というものがあるのです。IT技術の向上により、大きなデータも簡単に扱うことができるようになり、Web、インターネットの普及のみならず、スマートメディア、ウェアラブルデバイスの発展によって、それまで蓄積された来たシステムがここ5年、10年の間に一気に開花したわけです。その流れが医療業界にも押し寄せてきて、現在の医療データベースとビッグデータ解析を扱う医学論文が急激に増えてきているというわけです。何十年も前から、種をまき、水をやって育ててきた植物がついに果実を結び、そしていま、その果実を味わったり、調理方法を議論したりする段階に入ったといえます。

日本はデータベース後進国

一方で日本はというと、残念ながら国家規模の医療データベースはあまり発展していないと言わざるを得ません。全国がん登録が開始されたのはまさに今年(2016年)からですし、外科系のデータベースとして有名なNational Clinical Databaseは、現在の形式として運用され始めたのは2011年からだったと思います。DPCやレセプトデータも医療ビッグデータと言えますが、DPC算定制度が開始されてのは2003年からで、参加病院は急性期病院のみであり年々増加傾向にありますがおそらく60%程度ではないかと思われます。その他、各種学会・研究会などの学術団体が行っている全国登録と称されるものも、規模としてはNational Databaseとするにはやや小さく、またデータの項目が臨床的視点に偏りすぎているきらいがあります。

また現場での大きな問題は各種の登録システムが連携していないために、入力者の負担が増えるばかりです。分析的疫学研究の項でも書きましたが、日本の臨床研究は論文発表数で世界30位以下に落ち込んでおり、欧米先進国のみならず韓国、台湾、シンガポールなどのアジア諸国にも後れを取りつつあります。日本は欧米と比較して疫学の重要性に対する理解が乏しかったために研究予算を割いてこなかった(かわりに基礎研究は発展しましたが)ことや国民識別番号の制度化が遅れたことなどが大きな要因と言われていますが、いずれも日本人の性格、性質的なものに由来するのかもしれません。

どうしてもガラパゴス化する傾向がある

明治時代初期に、医学は当初英国から輸入しようとしていましたが、最終的には病理学・生理医学を重視するドイツ式医学を採用しました。そのために細胞や病理学を重視し、公衆衛生や疫学が軽視される学問体系が出来上がったと言われもしますが、そういうドイツ式を選択したのもやはり日本人の気質(要素還元主義的な)に合っていたからではないかと思います。

日本は携帯電話が「ガラパゴス携帯」と言われたように、IT業界のみならず、様々な領域でガラパゴス化する傾向があると言われています。医療に関しても、日本独自の治療と、海外のエビデンスを比較するような議論がしばしば聞かれますが、日本の手術は世界水準から突出して優れているので、海外のエビデンスをそのまま受け入れることはしない、という暗黙の了解(たまにガイドラインにも似たようなことが書かれていますが)があります。果たしてそれは本当なのでしょうか。幸運にも、私は米国、オーストラリアなど7-8の先進病院で手術見学をする機会を得たことと、そのほかに海外でスタッフドクターとして勤務している外科医に詳しく話を伺う機会も得て、なんとなくの印象はつかむことができました。現段階でいえることは

ある面で日本の手術手技が突出して優れているのは真実だが、それをデータとして示すことはできない。

ということがあると思います。「いやいや、たくさんの論文がそれを示しているではないか」と思われるかもしれませんが、実際にはあまり海外の外科医に受け入れられていません。第一にアメリカ人などは日本人の情報隠蔽体質をよく知っているので結果をあまり信用していないか、または興味すら持っていないということ、第二に、患者の体格が違いすぎて比較にならないと思っていること、第三に、そもそも(これはがん治療においてですが)手術が占める予後への影響など微々たるものだという認識がある、などがあります。

私はミシガン大学留学中に、日米の治療成績を比較したいと思い、米国のNational Databaseと、日本のデータを比較する研究に取り組みましたが、その過程で、実にさまざまな障壁があることがわかりました。それは、日米の医療の差、診断の差、歴史や文化の差、人種の差、医師の考え方の差など本当に多様な障壁でした。

とくに治療内容が大きく異なる胃癌や食道癌について大型のデータを比較しましたが、現状では診断から治療までのあらゆる点に違いが大きすぎるため短絡的な結論は出せないということになります。

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手術を評価するアウトカム 発刊しました

諸事情により公開が遅くなりましたが・・・ 4ヶ月ほど前に医学書院さんから「手術を評価するアウトカム」という書籍を発刊させていただきました 前作の手術に役立つ臨床研究ではかなりベーシックな内容を扱っていましたが、その続編と …

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