分析的観察研究

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外科の臨床研究は難しい

もちろん内科の臨床研究も難しいと思いますが、外科の臨床研究はもっと未開の領域で、まだ方法論が固まっていない部分が多いので、試行錯誤の状態です。そういう意味で「外科の臨床研究は難しい」と思います。

では内科における臨床研究と、外科領域の臨床研究の違いは何か?

一言でいうと、内科と外科の違いそのものだと思います。

最大の違いについては「このサイトの目的」の項で述べましたが、もう少し外科固有の特殊性について追加します。

「手術という介入の効果」を科学的に分析することの難しさは、外科手術というものの中身を知っている外科医は肌身に感じてよく理解していると思います。なんとなく、外科医は感覚として手術に関する臨床研究のあやうさを知っているので内科医ほど臨床研究そのものを認めていない、ということもあるかもしれません。

この外科医が持っている「臨床研究のあやうさ」という感覚を文章で論理的に説明するのは難しいですが、ざっくり言えば「科学的な要素」と、「社会・文化的な要素」があります。

  • 科学的な要素とは、手術の細かい違いを計測して解析することの難しさです。同じ名称の術式でも術者・施設(医局や流派)によってやっていることが結構違うものです。最近は手術ビデオなどが普及してきており、画質もかなり向上してきているので分野によっては統一がとれつつあり(定型化などと言われる)、一定のやり方が共有されるようになってきましたが、やはり細かな部分、使用する道具、周術期の管理などはばらつきが大きいと言わざるを得ません。だからこそ、外科領域では新しいエビデンスが容易に普及しないということがありえます。人がなんと言おうと、自分の好みに合ったやり方が一番良い、という考え方もまた正しいと思います。RCTなどで手術を無作為に割り付けること自体、通常診療とかけ離れたプレッシャーを外科医に与えていることになり情報バイアスも生じやすい状況です。またRCTには、このような倫理的問題が常に解消されないことも外科固有の問題と言えるでしょう。さらには、アウトカムをどのように設定し、計測するかというのも大きな問題です(詳細は外科のアウトカム研究の項をご参照ください)。
  • 社会文化的な要素とは、「臨床研究などによって外科治療の効果を評価すること自体がけしからん」という考えがあります。先人が創意工夫して作り上げてきた手術法や哲学を受け継いていくことの大切さも外科医はよくわかっています。そういう教えを忠実に守ることによって手術手技のトレーニングが成り立っていると言っても過言ではありません。研究する立場としては当たり前の作業ですが、「結果を評価」したり、「批判的に吟味」すること自体が外科医には好まれないという基本条件があります。臨床研究とは、分析的疫学研究の項でも述べますが、研究デザインのキモは「比較の対照」をきちんと設計することなのです。しかし実際には妥当性のある比較対照を用意することは非常に難しいのです。

同じ大学内に複数の医局があり、同じ病状に対して違うやり方で手術をしていたとしても、そのアウトカムを比較するような臨床研究が”社会的に”できるはずがありません。実際、私も以前に勤務した病院で、過去の手術データを使ってある術式の治療成績を評価したいと申し出たことがありますが、当時の部長先生からは、「何十年もの歴史が作り上げてきた術式をお前ごときに評価される筋合いはない」と言われ、そのまま議論が終了したこともあります。

臨床研究の種類

臨床研究にはいろいろな”種類”があります。所属する病院や組織のデータを分析する研究であっても、一口に「後ろ向き研究」とか「前向き研究」などというざっくりした分類で無く、自分の行なっている研究がどういう種類のものなのかをよく理解し、その方法論を深めていく必要があります。たとえば、これまで自身が実際に行なってみた臨床研究は下記の4つに分類されます。

  1. 外科領域のアウトカム研究

  2. 外科領域の分析的臨床疫学研究

  3. データベース研究と国際比較

  4. メタアナリシス

まず施設や術者ごとに介入のばらつきが大きい外科領域では、とくに頑強な指標を用いて厳密にアウトカムを評価する必要があり、そのアウトカムをどのように設計するか、について考えておく必要があります。これが「アウトカム研究」です。アウトカム一つとってもなかなか奥が深いものですから、どのように結果を測定し解釈し論文上に表現するのかは重要な問題です。なかなか簡単には説明しにくい事柄が多く、医学書院から「手術を評価するアウトカム」として書籍が発刊されていますのでよろしければご参照ください。

また、分析的臨床疫学研究とは手術のRCTは前述したように倫理的欠陥を克服することが出来ないことから、介入試験はなるべく行わないようにして、可能な限り観察研究の分析手法の精度を上げていく必要性があると思います。社会学や経済学の世界では、そもそもRCTを実施することが不可能な場面がほとんどであり、たくさんの分析的な解析手法が生まれています。このような分野から、臨床研究にも応用できる手法を積極的に取り入れて観察研究の質を高めていくことは大変重要な点です。ただの後ろ向き研究ではないかと揶揄されることもありますが、対照をきちんと設定し比較の妥当性を高めることで治療や暴露の効果を分析するということこそが臨床研究の本質であり、これをあえて「分析的(臨床)疫学研究」と表記しています。

RCTは常にサンプルサイズの不足に悩まされています。外科手術のような「ばらつきの大きい介入」を扱う臨床試験では、薬剤の評価などと同じようなサンプルサイズ設計よりも、実はもっともっと大きなサンプルサイズが必要なのかもしれません。そうなると内科領域以上に統合解析の出番が増えてくる可能性もあります。過去に「メタアナリシス」を勉強し論文を書いてみたのはそのためです。楽して良い雑誌に載せる研究と批判されることもありますがシステマティックレビュー&メタアナリシスも他の分野と同じで玉石混交です。実際に雑誌の査読をしていると多くのメタアナリシス論文がRejectされているのが現状です。

さらに大型のデータベースからモノを言うということも最近の潮流です。限られた専門施設の結果だけでなく、ある地域の全データを集約するような仕組みを作っていくことの必要性が外科領域にも認識されつつあります。最近わが国でもNCDなどのデータベース研究によって、手術症例の全体を把握しようという仕組みが作られつつあります。今後は海外のデータベースとの国際比較ができるようになることが第一の目標ではないかと思っています。私が専門にしている消化器外科領域の治療は国際的に治療内容の差が大きい疾患がたくさんあります。海外のデータとの比較研究が大きな福音をもたらすかもしれません。ただし過去にわが国と米国の癌診療のデータを比較したことがありますが、国内データの研究では考える必要の無かった交絡がたくさん存在し、疫学的な分析はともかく治療効果の検討と言うことになるとまだまだ先が長い状況です。

上記テーマは、いずれも外科の臨床研究を学ぶ上で非常に重要であると思い、私自身も各テーマについて研究を実施し、いくつかの結果を論文化してきました。このサイトのポリシーとして、必ず「自分が論文を書いた(または深く関与した)研究」を題材として取り上げ、論文には書ききれなかった部分や実際の苦労話などを交えて議論できればと考えています。臨床研究には、そのほかにも「診断精度・診断特性」を扱うものや、機械学習の普及に伴い「予測モデルの開発」などもありますが、とくにこれまでの経験上上記4つの研究テーマは外科医の好みが分かれる部分であり、たまにこれらの研究手法について強い批判を受けることがあるからです。残念ながらこれまで、実際に上記研究手法を実施して論文発表したうえで批判している臨床外科医は非常に少なく、その論拠は見当違いなことも多いと感じています。ここではあくまで自分自身で行なってみた研究について扱っていきたいと思います。

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手術を評価するアウトカム 発刊しました

諸事情により公開が遅くなりましたが・・・ 4ヶ月ほど前に医学書院さんから「手術を評価するアウトカム」という書籍を発刊させていただきました 前作の手術に役立つ臨床研究ではかなりベーシックな内容を扱っていましたが、その続編と …

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